ファインアート紙について

近年徐々に浸透してきている写真やイラストのインクジェット対応ファインアート紙への出力。
その独特な風合いの用紙が人気となっています。PHOTO BAZAARでもアートプラスブランドのファインアート紙シリーズの販売を開始(発売開始お知らせはこちら)致しました。

この機会に、そもそもファインアート紙とはどういうものなのか?色々種類があるが、どの種類の用紙にプリントすれば良いのか?今後はどういう流れになっていくのか?まとめて考察してみました。

ファインアート紙について

ファインアート紙関連まとめ

・ファインアート紙について <-- 今ここ
市販ファインアート紙の分類と使い分け
 

ファインアート紙とそのルーツ

2000年初頭、インクジェットプリント技術の進歩により、従来の銀塩写真と同等の高精細、高品質のデジタルイメージの再現が可能となったことで、一気に写真・アート業界でのインクジェットプリンタ活用の可能性が検討され始めました。

伝統的なアナログ美術用途で使用されてきた版画紙や水彩画紙といった画材用紙にインク受容層を設けインクジェットプリンタに対応するといった画材業界からの参入に加え、写真業界からもフジフィルム、コダックなどによる機械化大量生産による用紙の安価で単一化が進みすぎたRC銀塩写真紙とは一味違うインクジェット技術での旧来のバライタ暗室写真用紙の復活を求める流れと絡みあい、現在数多くのファインアート紙が流通し市場を形づくっています。

インク受容層を設けていない用紙と区別して、デジタルファインアート紙、インクジェットファインアート紙などと呼ばれたりすることもあります。

各社それぞれ数多くの用紙タイプを販売していますが、ファインアート用紙をルーツ別に系統分けを行えば、下5分類に集約されます。
1. 版画紙系   
2. 水彩紙系  
3. 暗室写真紙系 
4. 伝統紙基材と暗室写真紙の融合系
5. 和紙系/その他

それぞれのファインアート紙の由来・ルーツが分かれば自身の創作内容と照らし合わせ、どの系統の用紙でプリントすれば良いのかも理解しやすくなります。
この点、詳しくは『市販ファインアート紙の分類と使い分け』を参考にして下さい。
 

ファインアート紙の特徴と各用語

また、これらファインアート紙共通の特徴としては、
・保存性
・風合い
を両立している用紙と言えます。

このファインアート紙の保存性について、コットンラグや無酸性紙やリグニンという用語を目にすることがあります。
例えば、『用紙に使用されている基材がコットンラグベースであり、しかも無酸性でリグニンを含んでいない』という文章、、これはどういった意味なのか一つずつ見ていきたいと思います。

コットンラグとは?
コットンラグとは、綿の紡績から出る繊維ラグ(綿ボロ)を再利用したものであり、風合いが良く、耐久性の高い紙の素材となりえます。

cotton

日本人にとっては、コットンから紙が出来るというのはイメージし難いものではありますが、ヨーロッパではコットンは馴染み深い紙素材であります。
日本を含めたアジア地域は亜熱帯植物が豊かだったため、紙といえば、楮(こうぞ)、雁皮(がんぴ)、桑(くわ)、三椏(みつまた)などを原料とした和紙製紙法が発達した一方で、それら植物が少ないヨーロッパ地域では麻や綿を原料とした製紙法が発達したという製紙法発達経緯の違いがあるためです。

コットンラグをベースにした紙はドイツで木材パルプを原料とした近代製紙法が19世紀に発明されるまで、一般用紙から美術用紙まで幅広く使用されていました。
そして、その耐久性は歴史的にも証明されており、例えば、グーデンブルグの聖書、ルネッサンスの絵画、シェイクスピアの作品は全てコットンラグに書き残されたものでいまだに現存していることからもわかります。

無酸性紙とは?
また、ファインアート紙の長期保存性を実現する上でもう一つ大事な要素が無酸性紙であるということです。
市販のファインアート紙の中にはこのpHを明記している用紙もありますが、具体的な酸性、中性、アルカリ性の区分は以下となっています。

pH 液性
3.0未満 酸性
3.0以上、6.0未満 弱酸性
6.0以上、8.0未満 中性
8.0以上、11.0未満 弱アルカリ性
11.0以上、14以下 アルカリ性

無酸性が重要視されるのは、酸性の用紙は20~25年経過すると茶褐色に褪色し、最後には、手で軽くもんだだけでバラバラに折れ砕けてしまうなど保存性がありません。
近代製紙技術が確立し以降すぐの用紙は酸性紙であり保存性がないということが分かって以降、各地の図書館では当時の本をいかに保存するかという酸性化対策がとられたりしています。

   参考リンク:酸性紙問題とは?
acidpaper

リグニンとは?
上記の紙の酸性化の原因となるのが、『リグニン』になります。
リグニンは木材中の20%–30%を占めている物質であることから、当然紙の原料となる木材パルプにも含まれています。

紙を長期間置いておくと、何故か黄色く変色してしまっていたという経験をお持ちの方も多いと思いますが、この紙が黄色く変色する原因がリグニンと紫外線(日光)が科学反応を起こし酸性化した結果なのです。
ですので、紙の保存を考える上で『リグニンを含んでいない』ということは重要なポイントとなります。

木材パルプと違い、コットンラグから生成された紙であれば、当然ながら、このリグニンは含まれていません。
また、コットンラグと並んでファインアート紙の基材としてよく利用されているαセルロースというのは、科学的にリグニンを取り除いた木材パルプから生成された紙になります。
 

ファインアート紙の今後

これまでデジタルファインアート紙が世に出て以降、高品質のインクジェットプリンタを使っての出力に慣れがある写真業界に最初は浸透していきました。現在ではプロ・一般の方を含め幅広く使用されています。

一方、イラスト、水彩画などのアートの業界においては、業者の方ではファインアート用紙を使い、版画やジクレーという風に使用しているのを見受けられますが、今後、個人のクリエイターの層まで浸透していくかが一つのポイントとなるのではないでしょうか。

また、ファインアート用紙自体に関しても、今後は更に種類増え、細分化していくのではないかと考えます。
具体的には、
・水彩紙系のファインアート用紙に多様性がでてくる
・アジア圏から様々なファインアート用紙がでてくる
という2点です。

詳述すると、現在日本国内で流通していてアマゾンなど通販で簡単に入手できるファインアート紙としては、ハーネミューレ(ドイツ)キャンソン(フランス)などになると思います。
ドイツ、フランス共に芸術大国でありますが、水彩画という事に関して言えば、ヨーロッパ内でイギリス(英国)にて最も普及した歴史があり、現在でも大小様々な水彩紙工場が稼働しており、世界中に輸出されているという状況を鑑みれば、今後、英国産の多彩な面質の水彩紙系ファインアート紙がインクジェット対応し流通する可能性は高いと推測します。

また、日本においては、日本各地にご当地和紙がありますし、その他アジア地域では、中国の伝統的な竹紙などもあります。それら用紙も将来的にインクジェット対応されるかもしれません。
 

<<まとめ一覧に戻る

次の記事:市販ファインアート紙の分類と使い分け>>

  • このエントリーをはてなブックマークに追加